著者が4年半かけて、書いたこの本は、とても内容が濃いです。
じっくり向き合って読みました。
本を手にしたとき、ズシっと重みを感じました。
この本、表紙をはずして読む方には、本自体の手触りもこだわってることに気付きます。
さわり心地の良さに、おぉぉ!!と思います。
著者の「触覚」に対する、想いがたくさん詰められていて、読み終える瞬間に自分の心に湧き上がってきた言葉と、本の最後の段落に書かれていた言葉が、ぴたっと一致して、思わず「伝わったよ!!」と声がでました。
手に倫理はあるのか…

「手の倫理」という題名から、ハンドパワーのような、手から繰り出される癒しについて書かれている本なのかと思っていましたが、全く違いました。
手からの触覚には、「さわる」「ふれる」と二つ感覚があって、「さわる」だと、一方的な意味合いが多くて、「ふれる」だと、お互いという要素がふくまれることが多い。
手は、優しくふれて、人を励ますこともできるし、ケンカの時には、人を殴る凶器にもなってしまう。
そんな手に倫理があるのか?
それをつきつめていくという内容です。
道徳と倫理について

倫理とは、「人として守るべき道、道徳」とあり、道徳は倫理の中に含まれます。
道徳には、「○○すべき」で、それが正しいというひとつの答えがあります。
「ウソをつくことは悪いこと」「泥棒はいけないこと」というのが道徳で、倫理は、「ウソをつくことは悪いことだけれども、本当の事を言えば、相手を傷つけてしまう。」と考え、ウソをつくことを行動の選択肢のひとつに入れ、ウソをつくかつかないかを考えることが倫理。
たとえば、リハビリ治療で、腕をここまで伸ばすのが正しいこと(道徳)として治療するのか、ここまで伸ばすと痛いかもしれないと、相手の状態をさぐりながら伸ばす(倫理)治療をするのかでは、お互いの関係性に違いがでてしまい、正しいからと、自分の技術を押し付けてしまっては、相手を物として扱ってしまっていて、倫理ではなくなってしまいます。
確かに、学校では道徳を教えてくれますが、それがいつも実生活に正しいこととして、通用するとは限らないことを、たくさんのエピソードと共に紹介してくれています。とくに、自分の子どもを大泣きさせてしまったエピソードは、なんだか考えさせられました。
安全と信頼について

安全とは「自分に害がないことが保障されていること」、信頼とは「自分に害があるかもしれないというリスクを受け取る覚悟で、相手に期待すること」。
著者が、ブラインドラン(目隠しをして伴走者と共に走る)の体験で、輪っかにした短いロープを自分と伴走者が持ち、ともに走る時、最初は怖くて走れなかった著者ですが、伴走者を信頼すると腹をくくった瞬間、走れるようになって、その時、信頼をさせてくれたのは、伴走者とともに持つロープから伝わる感覚っだったそうです。
触覚から伝わることは、自分に絶対害がないという安全だけではなく、むしろ、リスクも覚悟して身を預ける信頼なのかもしれません。
あとがきのエピソード

この本の内容は、たくさん感動はありますが、泣けるといったような場面はなかったのですが、あとがきで、感動!!しばらく涙が止まりませんでした。
ここから先は、あとがきのネタバレになりますので、本書を実際に手にとって楽しみたいという方は、ご注意下さい。
↓↓↓↓↓↓ネタバレ注意です。↓↓↓↓↓↓
著者がまだ幼いころ、家族でお買い物をするために、電車で1時間かけて、都心へ向かっていたそうです。電車での1時間は幼い著者にはとても長く、おしゃべりでうるさくしてもいけないので、しばらくすると、母親のひざに横たわり寝かしつけられていたそうです。
当時は、「抱き癖がついてはいけないから」というような考え方で子育てをすることも多く、著者と母親にも、ある一定の距離感があったそうで、それは、信頼されているという点で、自立にはよかったのですが、幼い著者には、少し寂しい感じもあったそうです。
そして、母親のひざでうとうとと、いつの間にか寝てしまい、ふと途中で目をさますと、母親が寝かしつけるためではなく、ただ愛おしいものにふれるため、この子をなでたいから、無意識で自分をなでてくれていることに気付きます。目を覚ましたとわかれば、またいつもの母子の距離感です。この近付いた距離を感じたい、と著者は寝たふりを続けたそうです。
その時の感覚は、ただ自分の存在それだけに幸せを感じてくれている。その母親の手がとても幸せな思い出だったそうです。
ネタバレは以上です。
お母さんがしつけとして、心がけていた距離感が、子どもに寂しい思いをさせることもある、だけど、子供にはちゃんと愛情が伝わっていて、だから自分の価値をしっかり認めることができて、本当に心温まるエピソードで、涙がでました。
手に倫理はあるのか!!ぜひ、実際に本書でお確かめください。
私には、読み応えのある本でした。
最後までお付き合い下さりありがとうございます。
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